2024年3月末に前職を退職して個人事業主になってからちょうど一年が経過します。

3か月前の2024年末の振り返りとも一部重複しますが、一つの節目として、やりたかったこと、やったこと、できなかったこと、わかったこと、次にやることを記しておこうと思います。一身上の話がほとんどになりますが、一部、他の方の参考にもなるかもしれないと思う部分や、業界に投げかけてみたい視点も含みます。

やりたかったこと

何か特段の理由があってフリーランスになったというよりは成り行き上というのが近く、当初は「自分に何ができるかわからないから、まずはいろいろやってみよう」というスタンスでした。次第にテーマになっていたのが、「やりたいこと/やるべきと思えることだけをして、どれくらい食いつないでいけそうか?」という問いの検証だったといえるかもしれません。

では「やりたいこと/やるべきこと」は何だったのかですが、それを言い表すのに、昨年アカデミストの柴藤さんが提案されたRe:Rel(Research Relations)という概念がしっくり来ています。Re:Relは、抽象的にいえば、学術研究の営みとその外の文脈とのインターフェースを作る仕事だととらえています。これをインディペンデントな立場でどこまでできるか、独立系Re:Relとして自分は生きていくことができるんだろうか、というのが途中から問いになりました。

やったこと

一般社団法人AIアライメントネットワーク(ALIGN)の事務局立ち上げの仕事に始まり、いろいろな仕事をさせてもらいました。

一番多かったのはレクチャー系の企画で、国内外の有識者を招いたALIGN Webinar(全11回)、株式会社アカデミストでのOpen academia Lectures(いままで6回・継続中)、メタサイエンス勉強会(全6回の勉強会・ワークショップの企画補助)、対談動画「記号創発クロストーク」企画・制作(1~3月で8回を収録)。

またシンポジウム系のイベントとしては、Open academia Summitで一セッションの企画を担当したほか、「ALIGN設立記念シンポジウム」の事務局取り仕切りを務めました。後者は100人規模のイベントでしたが、このような企画の経験がなかったため、どこにどこまで神経を使うかの塩梅がわからず大変でした。

研究者・研究に接点をもつステークホルダーの新しいコミュニティを立ち上げる活動が多かったため、Xアカウントの運用(2024年4月~9月:ALIGN、2025年1月~3月:記号創発アウトリーチ)やSlack/Discordの運用(ALIGN(2024年9月まで)、Open academia Lectures、メタサイエンス研究会)も経験しました。

書き物の仕事としては、日経サイエンスでの高木志郎さんとの共著記事、JST Science Portalでの記事を2回、人工知能学会のセッションの記録係を1回手掛けたほか、ALIGNからの委託でAIの電力問題についての簡易レポート、記号創発システム論の入門用の記号創発スタディノート(これまでに5回を執筆)、研究合宿「CPC Spring Camp」への参加とレポート執筆、企業のワークショップのレポート取りまとめ(未公開)などを手がけました。

フリーランスになってよかったことの一つは、受託仕事以外にも(COIさえ注意すれば)自分の好きな発信ができるということで、以下のような発信・活動を行いました。

言うまでもなく、上記は自分一人でやったわけではまったくなく、その都度チームを組んだ方々と共に活動させてもらいました。

心掛けたこと

改めて振り返ると、小さな仕事をたくさんやった印象ですが、心掛けていたのは「なるべく自分から事を起こさないこと」でした。自分で何かを始めるのではなく、巻き込まれるのを待つ、あるいは関わりたいことを見つけて自分から「巻き込まれていく」スタンスです1

なぜそう心掛けているかというと、経験上、自分にはリーダーシップとやり抜く力が欠けているというのが一つ。もう一つは、研究業界を含め、今の世の中では「事を起こす人」に比べて「事を起こした人に巻き込まれる人」が不足しているのではないかという観測があるためです。実際、周囲を見回してみると、世の中では新しいプロジェクト、研究組織、スタートアップが次々に立ち上がるものの、どこも人材不足、アンダースタッフドな状態にあることが見て取れます。

食べていけるのか

一年やってみてどうだったか。自分がクライアントや業界全体や社会にとって実際に役に立ったかという視点を脇に置いて、冒頭の「どれくらい食いつないでいけそうか?」という問いに絞って振り返りますと、まず、自分のような人員への需要はものすごくあることが分かりました。「やりたいことがある、予算も余っている、だけど実務を動かす人が足りていない」という状況は多くの研究プロジェクトや研究組織が抱えている課題で、なおかつ、比較的自由に動けそうな人材を探している状況があります2。私自身、たくさんの仕事のオファーをいただき、その一部しか受けることができませんでした。

一方で、そうしたオファーを一つ一つ受けていくことで「生計が立つ」イメージが今のところ持てなかったことも事実です。実績でいうと、今年度の自分の収入は前年度の35%程度でした。ここまでお仕事をいただけたことに感謝しつつも、まだまだ現在の自分のスキルや市場の状況だと、「独立系Re:Relとして食べている」という状態に至ることは難しいのかなという印象を持ちました。

Re:Relの功と罪

ここから少しだけ、自分の話を離れた一般論を述べたいと思います。それは、マクロに見て「独立系Re:Rel」のような存在が増えることにどんな意義があるのか、ということです。

冒頭で述べたように、Re:Relというのは研究という営みをより広い文脈につなげる人々であり、昨今ますます必要になっている役割だと思っています。しかしそこには功罪もあり、それは研究のPR合戦に加担してしまうという点です。学術研究の世界も、ある種の「アイディアの市場」であり、いかに自分たちのアイディアを普及させるかでその分野への人材、予算といった有限の資源を誘引するゲームとしての側面があります。

Re:Relが行うアウトリーチ、アドミニストレーション、資金調達といった仕事は、アイディア市場において研究者が売ろうとしているアイディアの競争力を高める働きをします。それがゼロサムゲームである場合には、果てしないアテンション獲得の軍拡競争に武器を提供する役割にもなりかねず、だったらはじめからいないほうがよいではないか、ともなりかねません。

Re:Relが本当に学術の発展や、学術が価値を発揮するのに役立つ存在になるためには、Re:Rel自身に「誰とどんな仕事をするか」に関する選球眼を発揮できる状況が必要な気がします。いわばRe:Rel自身が学術的アイディアのバイヤーとなることで、アイディア市場をゆがめることなく、学術全体に寄与できるのではないか。理想論にすぎるかもしれませんが、どの組織にも属さない独立系Re:Relの存在意義はこのような所にあるのではないかと思っています。加えて、AIが科学の仕組み自体を流動化させつつある昨今、Re:Rel的な機能も伝統的な組織に縛られず自由に動けることが期待されるのではないかと思います。

ただし前述のように、独立系Re:Relとして生計を立てられる状況はまだ多くはなさそうです。当座は「本職を持つ方が1割程度のエフォートで副業的に、あるいはボランティアでRe:Rel活動に携わる」といったあたりが現実的であり、まずはそうした活動が増えるとよいのではないかと思っています。Re:Rel的タスクのAI化というのも一つの課題になるかもしれません。

次にやること

自分の話に戻ります。結論から言うと、次の一年はまた働き方を変えることにしました。ご縁があって、ある企業からエフォート率9割くらいの受託仕事をいただくことになったので、そこにほとんどの時間を割きつつ、今までやってきたことの続きを細々と続ける見込みです。メインの仕事は、表向きはRe:Relではないのですが、産業界における国内外の研究者と多く接点が持てる点で、今後につながる経験になることを期待しています。

こうした状況なので、次の一年は新規のオファーを受けることができなくなります。本来は、私にいただいた相談について適任者を紹介できれば良いのですが、「独立系Re:Rel」の人材市場がないこともあって、紹介できる人がほとんどいないのが現状です。上述のように、副業・ボランティアからでも少しずつ頼れる方が増えるとよいと思いますし、逆にオファーする側の待遇面も改善されるとよいと思います。引き続き、こうしたことについて問題意識のある方と対話できればと思います。

2025年度に、メインの仕事以外でやりたいことは下記です。

  • 記号創発アウトリーチ:記号創発クロスノートの完成+英語化、可能な限りで対談企画の継続。
  • Open academia Lectures:レクチャー残り3回の実施と、全体をまとめたレポート作成。
  • 6月末のMetascience Conference(@ロンドン)に参加し、その模様を報告。

「やりたいこと/やるべきと思えることだけをして、どれくらい食いつないでいけそうか?」という実験としての1年間は終わります。よく働いた気もしつつ、ひたすら遊んでいたような感覚もあります。何より自分が尊敬する第一線の研究者、アントレプレナーの方々と一緒に仕事ができたのが得がたい経験になりました。

フリーランス2年目も、引き続きよろしくお願いいたします。ALIGN、記号創発アウトリーチ、メタサイエンス研究会は引き続き関わってくれる方を探していますので、ぜひ関心があればお願いします。

また、ここで書いた「独立系Re:Rel」の役割や市場づくりといった話については、異論・反論含めいろいろご意見あろうかと思います。関心のある方と意見交換などできればと思っています。

昨年ふと思いついた描いてみた、Re:Relの役割についての丸山理解の図解


  1. 上記のうち自分から呼びかけたのは高木さんとの勉強会と、神経科学の哲学の読書会のみで、それらは単発で終わる想定のものでした。 

  2. また、この一年で改めて痛感したのが、研究者自身がいかに日々のイベント企画・雑誌編集・予算管理といった事務・調整業務に時間を使っているということでした。ただ、それは研究のエコシステムのを回すうえで極めて重要な仕事であって、決して「ブルシットジョブ」などではないということも同時に感じました。それを効果的に肩代わりする仕組みや、真に無駄な部分があればそれを解消していくことが重要だと思いました。