日本神経回路学会が主催するオータムスクールASCONE(Autumn School for Computational Neuroscience)に参加した。20数名の学部生、大学院生と、5~6人のオーガナイザー、6名のゲスト講師が千葉県一宮市のホテルに缶詰になる、3泊4日の合宿形式であった。

ASCONEは、計算論的神経科学に関心をもつ学部生から若手研究者までに門戸を開いている。2006年からほぼ毎年開催されており、私の在籍していた理論神経科学の研究室にも参加者募集のポスターが貼ってあったのを覚えている。当時の自分にとっては、優秀な同年代が参加しているのであろう「雲の上」というイメージのイベントだった。まさか、研究の道を取らなかった自分がこの年月を経て参加することになるとは思わなかった。緊張しながら参加したが、自分自身、予想以上に楽しめた。いくつかの意味でとても興味深かったので、記憶が新しいうちにメモを残しておきたい。

曇天の海岸。しかし基本ホテルに缶詰めなので天気は関係ない。

まず、形式面。このような合宿形式の研究会的なものに参加したのは初めてだったが、そのプログラムが自分にとっては驚きだった。一日に2つのレクチャーがあり、その他の時間は講師が出した「課題」についてグループ議論を行う。これが、朝9時から夜9時まで続く。昼食と夕食もディスカッションの間の時間にとられているので、必然、食事中も議論が続く。夜9時にようやく終わって、風呂に入った後、希望者は大部屋で議論する。

こう書くとものすごくスパルタな「ブートキャンプ」のようだが、そうではないところが面白い。参加者たちに課されているものは最小限だった。議論のあとにはグループ発表があるものの、何かそれが「審査」されるわけではなく、合宿後の成果発表もない。コンテスト的な要素もない。モチベーションの高い研究者の卵を一堂に集め、プレッシャーや緊張感が最小化された場で、質の高い講義を提供し、あとは講師・オーガナイザー陣と混ざりながらの議論を促す。とにかくアカデミックな議論の楽しさを味わってもらうという思想が通底しているように感じた。

今年のテーマは『脳・理解・計算』であった。分野を代表する研究者たちの、脳の計算モデルや神経生理学、知覚心理学に関するチュートリアル的な講義と、教育的な課題が扱われた前半3件の講義に続き、後半3つの講義は神経科学から離れ、「理解」の諸相を多方面から検討していく内容。私は、その口火を切る4つ目の講義を受けもち、「脳を理解するとはどういうことなのだろうか」というテーマで話題提供をさせてもらった。

当然ながら、(自分のものを除けば)どの講義もピカイチだった。しかし内容以上に、普段ならば学会等の基調講演を遠くから聴けるだけの研究者たちと一日中時間をともにし、その人柄も含めて知ることができるというのは他では得がたい機会であり、これがオーガナイザーやゲスト講師にとってもASCONEに関わる大きな魅力になっているのだろうと感じた。

「脳を理解すること」に関する科学哲学的な議論、自然言語処理の研究動向から考える言語モデルによる「言語理解」、理解という現象そのものの認知科学的理論の構築の試み等、様々な観点から、脳やAI「の」理解、脳やAI「による」理解について考え続けた3日間であったが、そのなかで改めて思ったのは、昨今のAI技術のワイルドな進歩のなかで、「理解」こそが改めて台風の目になっているのではないかということだった。科学のツールとしてのAIが「理解」を取り残していく可能性という意味でもそうだし、AIに残された最後の課題としての「理解」という意味でもまた。機会があれば考え続けたいし、ASCONE以外の場でも学際的に掘り下げていくべきテーマだと思う。

こうした議論の中身自体がどこまで受講生の中に残るかはわからないが、このメンバーで議論をし続けた経験や、講師たちの姿や語り口は、長く記憶に残るのだろうと思う。この4日間が、若手研究者の今後の進路を決定づけることも容易に想像できる。

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アカデミアの世界でこうした「若手向け合宿」的なものがほかにどれくらいあるのかわからないが、なるほどこれは重要なものだ、と感じた。ASCONEの場合、実行委員的な役割は学会の中での単なる持ち回りではなく、毎年概ね同じメンバーが担ってきた(ちょうど世代が変わりつつある)のだと聞いた。この催しの分野の発展にとっての重要性にかんがみて、同じ思想で継続できるようにとの配慮なのだろう。

私は、どうすれば日本語圏で独創的な面白い研究がどんどん出てくる状態になるのだろうか、ということに興味がある。ASCONEのような場は、研究者の教育という意味でも、学際的な高密度の議論の場という意味でも、非常に効果が高い取り組みなのではないかと想像する。それを中から体験できる機会をいただいた、ASCONEオーガナイザーの先生方、とりわけ寺島裕貴さんに感謝いたします。